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りゅぢ氏河童の川流れをする、の巻

2010年10月13日 15:41

変身 for KSG



或る朝目覚めると、一匹の河童になっていた。
けたたましくなり続ける目覚ましを右手で止め、ゆっくりと身体を起こす。
「もうこんな時間か」
ベッドから這い降りて洗面所に向かいながら後頭部をくしゃくしゃといじる。
頭頂部にその手が至った時、当然あるはずの髪がなくツルリとした感触にドキッとする。
まさかそれが皿であるとは露ほどに思わず、抜け落ちたか、ハゲたのかと一気に目が覚め鏡の中の自分を凝視した。
よかった、ハゲではない、ただの皿だ。

皿?

眼の前にいるのは、普段の自分より若干緑がかっている気がする。
眼の前にいるのは、普段の自分より若干口が出ている気がする。
背中のこれは亀の甲羅か?甲羅??
足にも手にも水かきのようなものが付いている。昨日まではなかったと思うが・・。
客観的に判断して、これは河童である。
どうにも私は河童になってしまったようだ。

一体何故こうなったのか?
河童の好物はキュウリだと聞いているが、昨夜食べたキュウリのせいでこうなったのか?
だとしたらけしからん話である。
キュウリを食べ過ぎると河童になる、と販売店および生産者は明記するべきではないか?
いやそもそも食べ過ぎた記憶はない。

とにかく私は河童になってしまった。
この事実を受け入れなくてはならない。
仕事は、、仕事は休もう。
河童にスーツは似合わない。


『お大事に、病院に行って早く良くなって下さいね』


よくなるんだろうか?病院で治るのだろうか?ぜひともいい病院を紹介して欲しい。
ふいに涙が出てきた。塩辛い、とても塩辛い涙だ。
なんで私が河童なぞにならなくてはいけないのか。
たまにはキュウリじゃくてカレーも食べたい。

いろいろ考えたのだが、河童を治す方法が思いつかなかった。
小さい頃から勉強をし、そこそこに有名な大学をでたにも拘わらず、河童を治す方法一つも分からないなんて一体今の教育制度はどうなっているのだ、と憤ってみたがやっぱり私は河童のままだった。
そうこうするうちに、てっぺんの皿が乾いてきていてもたってもいられない。
急いで服を脱いでシャワーを浴びた。
服を脱いだ時、蛙のような色合いの身体を見て哀しくなったが頭の皿に水を当てるとどうでもよくなった。
そのまま湯船に水を溜め、深々と潜る。
水中から頭を出し、ゆっくりと鼻まで出し口は水中のままの状態で止まる。
まさに想像する河童の状態は心地よく、多くの絵に出てくる彼らがこのようなカッコなのに納得した。

考えた結果、夜を待って家を出る事にした。
恐らく河童は治らないだろう。
ならば息子が河童になったという衝撃と失踪したという衝撃どちらが親にとっていいのだろう?と考えた結果、失踪することにした。
知人友人、それから左利き乙女、彼らにこんな姿を見られて笑われるのならともかく心配されでもしたら忍びない。何故ならもう治らないであろうから。

奥多摩の方の湖に行こうと思った。
あそこなら夏の行楽シーズン以外は静かに暮らせるだろう。
それに河童の1匹や2匹いてもおかしくない気もした。
もしかしたら同じ様な境遇の仲間に出会えるかもしれない。
時々反射して映るバックミラーやフロントガラスにはまぎれもなく河童がいた。

奥多摩まで行こうと思っていたのはとんでもなく甘い考えだった。
頭の皿がすぐに乾いてしまうのだ。
皿が乾くとイライラする。イライラするがそれもすぐ終わり、今度は急に元気がなくなる。吐き気や眩暈がし、その先はどうなるか分からないが、恐らく死ぬのだろう。
そうなる前に水が欲しい。
なぜ家を出るときに水を持ってこなかったのか?その事を後悔してみても始まらない。
奥多摩どころか近所の多摩川で限界だった。
土手沿いの道に車を停めて、河川を走った。
誰かに見られてるかもしれないが、なにかまいやしないだろう。
どうせ私はもう川から出る事はない。
このまま違う場所にスイスイと泳いで静かに暮らそう。

多摩川に飛び込み私は考えた。
さかのぼって奥多摩まで行くか?
それとも海へ向かおうか?

川を下るのが楽だろう。そして広い海に一つや二つ、住みやすそうな無人島くらいすぐに見つかるだろう。
そこで人魚と恋に落ちて暮らすのもいいだろう。河童がいたのだ、人魚もいてしかるべき。
仰向けに水に浮かび、流されていった。
真っ暗でただただ黒い夜空に、それでも輝き続ける都会の星があった。
「これがほんとの河童の川流れ」
そう呟いて皮肉な笑みを浮かべた。

河童はな、泳ぎに失敗して流されてるんじゃないんだよ。自分から流れて行ってんだ。そういった意味で、猿も気から落ちるとか弘法にもなんとやらとは全く別物なんだ。河童の川下りとでも言ってほしいな。意味は『全てを捨てて去っていく』。

どのくらい時間がたっただろうか?気が付くと潮の香りがした。
波の音が聞こえる。あぁ海に来たんだな。
これから私はどこに行こう。
考えてなかったが、天敵もいるだろう。サメに襲われたら?
怖くもなったがそれでもいいだろうとも思えた。
どうせ、河童だ。誰も心配なぞしないだろう。悲しみもしないだろう。
ただのひとかけらさえも残さないで全部食べてくれることを願おう。
中途半端に残ってどこぞの浜辺に漂流して、『これはアイツだ!』なんてコトになったら河童の川下りの意味がないだろう?

私は水かきの付いた手を大きく開き、前に進む推進力を得た。
驚くほどのスピードで海へと向かっていく。
ほら、こんなに早く泳げるんだ。やっぱり河童は流されてるんじゃないんだぜ。
そう思ったのも束の間、急に苦しくなってきた。
頭の皿がキリキリした。
皮膚にもつっぱるような痛みが走った。

その時唐突に私は悟った。
『河童』、河の童。河、川。


もしかして私は淡水魚的なアレか?

もう手遅れだった。
必死に手足をばたつかせてはみるが、まったく身体が浮き上がらない。それどころかどんどん沈んでいく。
たくさんの気泡が私から離れ、寂しい夜空に星となって彩りを加えた。
まさか、こんなところで、、薄れ行く意識の中、私は涙を流していた。
あの時、誰かに相談していれば。あの時、家から出なければ。あの時、湖に向かっていれば。あの時、、、

それ以上『あの時』が思い浮かばなかったが、河童の川流れは河童の川下りでもなく、河童の海沈みだなと軽くなっていく頭をふとよぎった。意味は『全てを捨てさせられて消えていく』。
そこで世界は暗転した。


そうして海は少しだけしょっぱくなった。
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地域密着型なお店

2010年03月26日 08:51

For PRK



桜の花びら舞う今頃になると、少しの甘酸っぱさと少しの苦味が胸につまって淡い恋心を思い出す。
まだボクが大学生だった頃、近くのコンビニでバイトをしていた。
ただの普通のコンビニ、それ以下でもそれ以上でもないただの普通のお話。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『あっ、やった』

ふぁさーっと店内に白塵が舞うその時間、21時半。
いつも決まってこの時間にやってくるOL風の女性が通路を通る際にひっかけた小麦粉が床に散乱した。
急いでモップを持ち出したボクは、オタオタとキョドっている彼女に『大丈夫ですか?』と声をかけた。


『スミマセンッ!私、ぼーっとしてて!本当にごめんなさい、あの、これ、弁償します』

しきりに謝る彼女の鼻の頭は小麦粉で白く化粧づいていた。
正直に言おう。ボクはこの人を知っている。
いつも決まった時間に現れる客を、客が思っている以上に店員は覚えているもんだ。さらに、その人が美人であればなおさらだろう?
だからボクは会話ができるこのチャンスを店長には悪いが実は喜んでいたんだ。


「あー、いいですよ。気にしないで。破損で返品かけちゃうんで。それより服大丈夫です?」


精一杯の笑顔で答えたつもり。
恐縮しすぎてちょっと涙目になっていたその顔がホッと安堵で緩む。
掃除をしている間も彼女は散々謝って、終わるとやっぱり謝って帰っていった。


「またお越しくださいね」


破けた小麦粉の袋を事務所に持っていき、店長に事情を説明すると『破損で返品かけちゃおう』と言って机の下の箱にそれを入れた。



次の日、いつものようにレジをうっていると、『こんばんわ』と声をかけられた。
顔をあげると彼女が笑顔で立っていた。
来づらくなってもう来ないかなー美人だったのになーと少し残念がってた矢先だったので少し驚いた。


『昨日はどうもご迷惑をおかけしました。それで、これお礼に』


と、小さな青い紙袋を差し出す。


「いや、ほんと結構です。かえって悪いですよ」


結局、たいしたものじゃないからと言う彼女に押し切られ、それを受け取った。
事務所で包みをあけるとかわいらしいクッキーが入っていた。
さすがかわいい彼女はかわいいものを選ぶと一人納得し、ついついニヤニヤしながらつまんでいると、パートのおばさんが気味悪そうにボクを見ていた。

そんなちょっとした日常のハプニングなんて毎日起こるものじゃない。
それから平凡な何も起きない毎日を過ごした。
普通に大学に行き、普通に授業を受け、普通に友達と笑いあい、普通にバイトをした。
そうこうしているうちに完全に春を迎え、寒くない夜がやってきた。

いつものようにバイトを終え、珍しく廃棄となったいちごタピオカのドリンクを貰って外でタバコをくわえた。
もうすぐ夏になるんだなぁ、そう思いつつも決まった相手がいるわけでもなく、予定もない事がやけに寂しく感じた。


『あれ、キミ?』

振り返ると彼女がいた。

『久しぶりじゃない?元気だった?』


彼女はちょっと酔っ払っているらしく、やけにフレンドリーな雰囲気だった。
小走りに駆け寄ってきて、ボクの隣に腰掛ける。
久しぶりに会う彼女は少し髪を切って大人っぽくなっていた。

「髪切ったんですか?」

『いつの話よ、切ったの随分前よ』

「あ、そうなんですか。いや、久しぶりだし・・・」

『そーいえばそーか、ごめんごめん』


彼女の酔いもあって、ボク達はまるで友達かのようにいろんな事を話した。
勤め先は四谷にある会社で事務をやっている事、歳はボクより一つ上な事、近所はこの近くである事、最近は帰りが遅くなってコンビニにはあまり寄らなくなった事。
主に彼女が自分の事をしゃべり、ボクは相槌をうってばかりだった。
そのうち彼女はパタと話さなくなりだんまりと自分の指先を見つめた。
急に黙った彼女を不思議に思いうつむいたその顔を覗き込んだ。
眼にためた涙が見つめた指先へとポタリと一滴こぼれた。


「え、ちょっと、どうしたんですか?なんかボク悪いこといいました??」

あわてて声を発するボク。

『私ね、今日彼氏と別れたんだ。結構長く付き合ってたんだけどな、、最近会えないことが多かったから、、、』

いきなりの重たい話に声を失うボク。


『どうしてかなー、仕事が忙しいと思って、邪魔しちゃいけないと思って、連絡したいのも我慢して、でもお前はオレのこと好きじゃないんだろう?とか言われちゃって、好きに決まってんじゃない!好きだから連絡しないで我慢してたんじゃない!』

叫ぶように言った彼女の涙はもう滴どころではなかった。
声を震わせ肩も震わせて泣き出す彼女。
意味深にいやらしい笑顔を浮かべた若い男性がボクらを眺めながらコンビニに入っていった。

若干の気まずさが流れる。
ボクは何と言ったらいいものか逡巡し、

「それ彼氏にちゃんと言いました?」

と聞いた。
「そんな彼氏別れて正解だっ!ボクと付き合いましょう!」と抱きしめれるほどの甲斐性をあいにく持ち合わせてなく、こともあろうかうまくいく為のアドヴァイスをしてしまう。

「それだけ好きならば、その気持ちをちゃんと言わないと伝わらないですよ。相手はわかってるだろう、だなんて結構男は気づかないもんですよ」

敵に塩を送るとはこのことだ。
千載一遇のチャンスを棒に振り、ボクは一体ドンだけいい人になりたいのだろう。

「これ飲んで落ち着いてください、廃棄だけど」

いちごタピオカまで贈ってしまった。


『もう一度よく話してみるね』

そう赤い眼でにっこり微笑んで彼女は帰って行った。


次の日、あいもかわらずバイトに入り、事務所でパソコンを打っている店長の横でシフトをチェックしていると、ダンボールの中の小麦粉が眼に入った。

「あれ?店長、その小麦粉まだ送ってないんですか?」

『あぁ~忘れてた~。まぁ忘れるよな。結局さ、こういうのっていつまでも残っちゃうんだよな。まぁ、昔の女みたいなもんさ。忘れようと思っても忘れられないっていうの?』

「何言ってんすか?頭おかしいんじゃないですか?それ小麦粉ですよ。早く送れよ」


そんなことを言い合ってると、『すみませーん』と客に呼ばれた。
急いでレジに出ると、例の彼女が立っていた。

『あ、昨日はありがとう。ちゃんと話をしたら彼も分かってくれて、、へへ』

嬉しそうに笑う彼女の顔をみて、少しのジェラシー。

『でね、今、彼と一緒なんだ』

外を見ると、背の高い男性がタバコをふかしていた。

「もしかしてあれ?」

『そう、あれ。ふふ』

あぁ。もやもや。
うまくいってよかったよ。あぁ、よかったよ。だが、しかし!しかしぃ!!
彼女はそんなボクの葛藤なぞそ知らぬ顔で、パタパタとドリンクを持ってきて、『これもください』と言った。

『で、これは昨日のお礼。廃棄じゃないぞ』

そういっていちごタピオカをくれた。
仲良く腕を組んで歩いていく二人を嫉妬と羨望の眼差しで見ていると、店長が事務所から出てきて言った。

『なに?失恋??』

「そんなんじゃないです。そんなんじゃないですけど、、、外に塩撒いていいですか?」


『ねぇーよ、塩なんて。あぁ、小麦粉ならあるぞ?』

忘れられない、か。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ひらひらと舞い落ちる桜を見ると、これからも毎年思い出すんだろうな。
思いっきり撒いた小麦粉は、月の光の中キラキラと反射して地面に白く積もった。

もう春なのにな。心は冬景色。

ときめき麺々丸(アイツ)はラーメンの精?:溢れたから書く話

2010年03月02日 14:06

For KSG ver.2



「うそつけ」

ラーメンを食べながら俺はそう言った。

『いやいやほんとですって。なんでうそだって言い切れるんですか?ほんとに美味しいラーメンにはラーメンの精が宿るんですって』

軽くあしらう俺にコスゲはムキになって主張した。

『その店には毎日ラーメンの精が通いつめてくれて、売り上げに貢献してくれるんです。例えばあそこに男の人がいるじゃないですか?あの人、いつもいるじゃないですか?あの人こそラーメンの精に間違いないんじゃないですか?』

そういって指差した先には、おっさんが独りラーメンを啜っていた。
確かに良く見かける顔ではあるが、どこからどうみてもただのおっさん、それ以外に考えられる選択肢はない。

「おまえなぁ、ある日突然知らないヤツに“あなたはラーメンの精だ”って言われる人の気持ちになって考えてみろよ。悪口じゃねぇの?それ。ほとんど辻斬りじゃん」

『あぁ~あの人があの有名な麺々丸さんだったんですね~』

「なに?麺々丸って?」

『ラーメンの精の名前です』

「全国区?」

『いえ、今付けました』


頑なにただのおっさんを麺々丸だと主張するコスゲに押されて、食べ終わってでていくおっさんの後をつけることになった。
何の因果か、どんだけの暇人か、ただのおっさんの後をつける物好きがどこにいる?ここにいた。
あのおっさんが本当にラーメンの精だったとしても、それがどうした?得るものは皆無であると言える。

『ちょっと、もっと隠密行動心がけてくださいよ。バレたら飛んで行っちゃうじゃないですか?そうしたら後をつけることはもうできないんですよ?もしかしたら二度とあの店には現れないかもしれない。あの店潰れるなぁーかわいそうだなー。その時になってあの時もっと隠密行動してればって思っても遅いんですからね!』

「なにそれ?座敷わらし的な?飛んでいったのなら、それでおっさんが麺々丸であるという証明になるんじゃないか?むしろバレた方が手っ取り早い気がする」

『あぁ~分かってないなぁ。こういうのは段取りが大事なんですって。なんで分かんないかなぁ、分かんないだろうなぁ』

格下を見るような目つきで残念そうな顔をするコスゲ。
バカにされたようで俺もムキになって身を隠す。
そんな俺たちの争いなぞ全く気づいていない様子で麺々丸は歩いていく。

『ほら、急いで!』


しばらく歩いて行くと、麺々丸はラーメン屋に入っていった。

「なぁ、さっき食ったばかりだよな?あの人またラーメン屋に入って行ったぞ?」

『ラーメンの精なんだから当たり前じゃないですか?ほら行きますよ』

「なんで!?外で待ってればよくね?」

『おかしーでしょ、外で待ってるなんて。それに麺々丸が何食べるか興味がわくじゃないですか!?むしろ』

コスゲは渋々する俺を引きずって暖簾をくぐった。
狭い店内には客がまばらに座っており、一番隅っこに麺々丸は座っていた。
迷わずラーメンの食券を買うコスゲ、俺はメンマだけでいいかなと思ってると強引にチャーシュー麺のボタンを押された。

『ラーメン屋に入って、メンマだけのヤツなんていませんから』

何で今日二杯目のラーメンがチャーシュー麺なんて、重量級なんだよ。そう思いながら、麺々丸が良く見える席に座り食券を差し出した。
チラチラと観察する俺たち。
湯気が立ち込める狭いラーメン屋で、麺々丸はうまそうにラーメンを啜った。

「なぁ、ただの大食いのおっさんじゃねぇの?それもすこぶるラーメン好きの」

『すこぶるラーメン好きでもハシゴします?そんなヤツもいないですって』

「ラーメンの精もいねぇだろ」

出てきたラーメンは美味しかった。
美味しかったがいかんせん、先ほど食べたばかり。お腹の具合が妊婦さんだ。
なんとか完食すると、麺々丸がちょうど出て行くところだった。
再び俺たちは後をつける。
夕暮れ時となり、黄昏の空の下、こそこそとおっさんを尾行している俺たち。
なにしてんだろー、もういいんじゃねぇかなー。

「なぁ、もういいんじゃ・・・」

そういいかけた時、麺々丸が暖簾をくぐって行くのが見えた。
もちろんその暖簾には【ラーメン】と書かれていた。

『さすがラーメンの精!仕事熱心ですね』

「仕事じゃねぇだろ、、、え、もしかして、、、、俺らも?」

『もちろん!』

そして本日三杯目のラーメンを食べた。
我侭に付き合ってもらってるから、とコスゲが奢ってくれたが、それはチャーシュー麺大盛りだった。
また重量級!?それも超!!それ嫌がらせじゃないの??いや、絶対嫌がらせでしょ!?

『私のラーメンが食べれない?食べれないというんですか?あぁそう。食べれないんだ~ふーん』

泣きながら食べた。
もうあのおっさん、自分で名乗ってくれないかな?はじめまして麺々丸ですくらい言ってくれないかな??

『一日に三杯もラーメン。期待が高まりますね。ついにラーメンの精を発見してしまったようですね』

「俺たちも三杯食べたけど?そしたら、俺らもどっちかといえば、ラーメンの精よりなんじゃないの?それにお前らラーメンだけど、俺、チャーシューだぞ?俺が麺々丸じゃねぇの?」


そんなこんなで麺々丸の尾行は続いた。
信じられない事にその後さらに三杯、全部で六杯もラーメンを食べる羽目になった。
いい加減、見ただけで吐きそうだ。
いや、見なくても十分に吐ける。
ハンター×ハンターでいえば、具現化すらできる。
そう思った時、麺々丸に新たな動きが起きた。

『あ、帰るみたいです』

お腹をさすって歩くその姿に、先ほどまでの物色するような素振りが見えず、足は一方を向いて進んでいるように思える。
商店街を抜けて、神社がある方角へと歩いていく。
家に帰るのかと思いきや、途中にある屋台のラーメン屋の椅子に座った。

「な、七杯目!?」

仕方なしに俺たちも麺々丸の隣に座った。
人のよさそうな店主がラーメンを出して『おっ、はじめてみる顔だね、お二人さん。じゃぁこれはおまけだよ』とチャーシューを乗せてきた。
うっと息を詰まらせる俺にばれないようにこっそりとそのチャーシューを俺の器に移すコスゲ。
そんなコスゲを無言で睨むが、何食わぬ顔でラーメンを啜っていた。
その横で店主は麺々丸に話しかけだした。

『あんた最近良く来るね。不思議なんだけどさ、あんたが来るようになって客が増えたんだよ。あんた、俺にとっちゃ座敷わらしみたいなもんさ。ははっ、俺が勝手に思ってるだけだがね』


そういえば、今食べてきたラーメンはどれもうまいものばかりだった。
最初の方に入ったラーメン屋こそ、客は少なかったがそれは時間が早かったせいだろう。
後の方のはどれも満員であったと記憶している。
店内には雑誌の切り抜きや、テレビ画面をチャプターしたものなどが貼られていて、最近ピックアップされている事が伺えた。
一日に七杯もラーメンを食べる?
もしかして、、もしかしてホントにこの人、、、、

気づくと神社の中へと入っていく麺々丸の後ろ姿が見えた。
俺とコスゲは急いでお金を払い後を追う。
どんどん奥へと入っていく後姿。
良く晴れた日だったが、いつの間にやら空は雲に覆われて星が見えない。
街灯がジジジッと音を立てた。

何個目の鳥居をくぐったころだろうか?前を歩く麺々丸の姿が消えていた。
背筋に冷や汗が流れ、ぞくっとするような冷たい空気があたりをおおう。

『あの人、ほんとにラーメンの精だったのかな?』

そうコスゲが呟くように言った。
ちょうど思ってた事を言われ、なんとなく認めづらくて慌てて否定する。

「んなわけないって。そんなのいるわけないじゃん、、か」


沈黙。

沈黙に耐えられなくなってあたりを見回した俺の目に、外を歩く麺々丸の姿が見えた。

「おい、あそこにいるぞ!あれ麺々丸じゃね!?」

慌ててコスゲの手をひっぱり走り出す。
先ほどと変わらぬ速度で缶コーヒーを飲みながら麺々丸は歩いていた。
そして、とある家の前で止まるとインターホンを押して、ただいまーと言った。
あたりの暗闇を突き破り扉から明かりが漏れ、その中に麺々丸は消えていった。

表札を見ると、【山本】とかかれており、俺はコスゲに聞いた。


「麺々丸ってさ、本名は山本麺々丸って言うの?」

『あ、、、いや、、、あの人は、、山本さんでしょう・・・それもラーメンがすこぶる大好きな・・・』

「山本さん、だよね、、、」


しょんぼりした気持ちで帰り道を歩く。
ただのおっさんはやはりただのおっさんだった。しかもなんつーかただの山本さん。
七杯もラーメンを食べてラーメン嫌いになった。
得るものは何もなかったのだ。というか、失った。たくさんのものを失った。
そんな事を思ってると、突然コスゲが笑い出した。


『ふふーん、何を隠そうか、、じ・つ・わ、私が麺々丸だったのだ』


「うそつけ」

俺のかぐやはどこ行った?:溢れたから書く話

2010年03月01日 17:27

For KSG



かぐやが流行っているらしい。
まだ若めの、しかししっかり成長した竹の中頃に光り輝く節があったらそこにかぐやがいるという。
だいたいがどの竹林にもいるが、なかでも京都嵐山方面の竹林と奈良の某とかいうとこの竹林は、良質のかぐやが手に入るということで人気が高い。
その二つにはほど遠いが、府中の大国魂神社も良いかぐやを生み出すとその筋には知られてるのだとか。
つい先日その事を知った俺は、早速神社まで出かけて行きそこでかぐやを手に入れた。
興味がない振りを装っていたが、まわりの友人達が次々とかぐやを手に入れているのをみて、いてもたってもいられなくなったのだ。

昼間から鬱蒼としげる竹林の中に、そこかしこと光る節をもった竹がそびえていた。
どれにしようかと悩んでいると、後から来た男が無造作にいくつかの竹に鉈を入れて言った。
『どれだって同じだよ』
そう言いいながらも、一番キレイに輝く竹をちゃっかし取っていった。

『どれでも同じか、たしかにそうだな』

そう思って次にキレイな竹に鉈をいれようとすると、目の端にその竹が映った。
それは確かにキレイであったが、一番ではない。何故?と言われても説明はできないけれど、その個性的な輝きが俺の心を魅了した。すなおにこれにしよう、これがいいと思った。
光る部分を傷つけないように大事に取り出すと、竹林を後にした。
帰り道、友人が竹を大事そうに抱えてる俺をみて、『へーそれにしたんだ?でもなんでそれ?もっといいのあったんじゃないの?』と言った。
どうにも、人好き好きである。その上余計だ。

育て始めてから三ヶ月が非常に大切だと、かぐやと暮らす友人が言った。
なんでもその期間をおろそかにすると、すぐにかぐやは月に帰ってしまうのだと。
月に帰るならまだしも、枯れてしまうこともあるらしい。
そうならないように大事に大事に育てなくては。

俺の生活で、かぐやの占める割合が格段に増えた。
というより、ほぼ毎日がかぐやそのものであった。
かぐやが喜んだ顔をみるのが何よりうれしかった。
ご飯を一緒に食べ、外に出かけたりもした。
ある時は、ツタヤでDVDを選んで、手をつないで夜道を歩いた。
かぐやはラブストーリーを観ては顔を上気させ、ヒューマンドラマを観ては目に涙を浮かべた。
何があった、とイベントに溢れていたわけではなかったが、隣で眠るかぐやの寝顔を見るにつけ『平凡』という2文字に当てはめられないステキな日々を感じた。


『満月と三日月、どっちが明るいと思う?』

議論好きなかぐやは良くそう言った。
かぐやが言うには、三日月の方が断然明るいのだと。

『見えない部分に満月の明るさを想像するでしょう?そうするとその部分は本当に明るいの』

ならば新月はどうなんだい?新月が一番明るいんじゃないの?

『新月はダメよ。何も見えないもの。少し明るいトコがあるからない部分を想像できるのよ。まったく見えない新月は、忘れてしまったのと一緒よ』


飛ぶように歳月は流れ、とうとうお別れの時がやってきた。
思い出の土地で満月を見つめたかぐやは、もう月に帰らねばと言う。
月の光に銀色に照らされたかぐやは、今までのどのかぐやよりも美しくまた魅力的だった。
まるで満開の花を咲かせえたような美しさに、かるく眩暈を覚えた。
あぁそうか、今日がかぐやと出会って120年、もうそんなに経つのだなと思った。


『どうして帰るだなんて?俺はかぐやとずっと一緒にいたい、かぐやを心から愛している』

そう涙ながらに言う俺に、かぐやは優しく微笑んだ。

『まんまるに膨らんだ月はあとは欠けていくだけ。物事にはなんでも終わりがあるでしょう?ならばせめて一番大きな時に、思い出の満月がとても輝くように』

かぐやの頬に一筋の涙が流れるのを見て、あぁかぐやも本当は俺と同じ気持ちなんだなと安堵した。
その涙も月の光に反射して、とてもキレイだった。


そうしてかぐやはいなくなった。



少し欠けた月を見上げながら、かぐやの事を考える。
満月よりもより輝くその月を見つめると、かぐやの言ってた事は本当に正しかったと思う。
明日にはまた少し月は欠けるだろう。
そうして思い出のかぐやはより輝くだろう。
少しずつ欠けてく月と、少しずつ輝きを増す思い出。

その時俺の中で何かが弾けた。


新月は?いつかやってくる新月を迎えた時、かぐやはどうなってしまうのか?


『新月は嫌よ。だって見えないのだもの。そんなの忘れたのと一緒でしょ?』

そうかぐやは言った。
時間とともに忘れていく痛み。
忘れるのか?ただ思い出さなくなるだけか?
どちらにしよ、かぐやの記憶が薄れていくことは変わりがない。

そんな事は耐えられない!


俺は部屋から駆け出し自転車にまたがった。
ライトがいらないほどの月明かりの中、一心不乱にペダルをこぐ。
何度も確かめるようにその名を叫び、忘れていく思い出に待ったをかけるかのように月を見た。

かぐやはどこだ?俺のかぐやはどこに行った?


かぐやを見つけた大国魂神社の竹林に入り、かぐやの残骸を探した。
竹林の管理をする老人が、必死でかぐやを探す俺を見て言った。


『かぐやなんてそこかしこにあるじゃない?どれでも好きなの取ってっていいよ。どれでも同じだろう?』


同じなものか、同じであってたまるか!
そう叫び、キョトンと目を丸くする老人をしり目に再び自転車にまたがった。
規則的に軋みをあげる自転車にさらなる負荷をかけて夜道を走る。
後ろへと流れていく景色に思い出が重なっていく。
手をつないで歩いた道、こっちが近道だと俺の手をひっぱるかぐや、冷蔵庫のプリン食べちゃったと舌を出して謝るいたずらっ子の顔、そういったいくつものエレメントが夜風とともに流れ出した。

早く、一秒でも早く!


汗が額を流れ、身体があつい。
それでも空へと続く坂道を、たちこぎをして駆け上がる。
銀色に輝く欠けた満月目指して自転車をこぎ続けた。


大気圏に突入すると、摩擦熱でものすごく熱いと学者は言ったがあれは嘘だったようだ。

だって今、とても心地よい。

万物無用:溢れたから書く話

2010年02月23日 17:16

邯鄲の夢



『よいですか?私の言う事を努々疑うことはなさいませぬな。あなたの部屋の東南東の片隅をよくよく見つめてみなさい。するとそこに小さな小さな穴を見つけることができるでしょう。なに、そのままの姿では入ることはできません。そうですね、米粒くらいの大きさにまずはなりなさい。そうしてその穴を通り抜けるのです。少し狭いかもしれません。ですがそこをなんとか諦めずに通り抜けると、今度は三つの扉があります。間違えなさんな、一番右の扉に入るのです。四畳半の部屋の中空に、浮かんでいるような、つるされているような花瓶の中にまだ蕾のまま一本の花が挿してあるでしょう。その紫の花びらを一枚一枚丁寧に剥がしていくと、白い花弁がでてくるのでその中にある鍵を持って今度は一番左の扉をあけなさい。そこには財宝の山、永遠の命を保つ薬、夢の枕とあります。間違えてもその他のものに目がくらまぬようお祈りしております。“夢の枕”、それを持ってくるのです』

そこまで聞いてりゅぢ氏は尋ねた。“夢の枕”とは一体なんぞや?と。

『夢の枕、それは文字通り夢を見せてくれる枕にほかなりません。わずか刹那、その間に一生の夢を見せてくれる夢のような枕でございます。夢の中であなたは良い事も悪い事も経験して、そして死を迎えるでしょう。死を迎えたときが夢の終わり、眼が覚めるときです。眼が覚めたあなたは眠る前となんら変わった事はありません。全て以前のまま、金持ちで死のうが貧乏人で死のうが、それは夢なのです。人生においてさまざまな後悔や挫折を味わってきたでしょうが、また眠れば初めから一生をやり直せるのです。永遠に生きるのではありません、一生を初めからやり直せるのです。こんなに素晴らしい枕はないでしょう?』

しかしそれは所詮夢の話であって、今この現実に対し干渉してくるものでないのなら、なんの意味をなさないのではないでしょうか?

『それはあなたが今この“現実”と呼ぶ場所にいるからです。考えてもみなさい。夢の中で一生を送るのですよ?それはそれは長い時間です。100歳生きるかも知れないし、10年で死ぬかもしれません。10年、それにしたって十分に長い時間でしょう。起きたら10分と経ってないかもしれませんが、夢の中であなたは紛れもなく10年を経験しているのです。そんな一生をなんどでも繰り返せるのです。そのうちどちらが現実でどちらが夢であるかなど、些細な問題となってくるのではないでしょうか?なにせあなたは夢の中での方が、長い時間生きている』


そこまで聞いてりゅぢ氏は“夢の枕”とやらを取りに行く決意をした。
夢と現実の境界が曖昧となった今、どちらが本当の現実かを語るのになんら意味があるのであろうか?
現実世界を貫く時間軸とは別の軸を持つのなら、それこそがまさに拠って立つべき真実なのではないだろうか?
今りゅぢ氏が突然の死を迎えたところで、どこかまったくの別次元で眼が覚めないと一体誰が断言できようか?
この現実がただのりゅぢ氏の一夜の夢であると、誰が否定できようか?


そうしてりゅぢ氏は“夢の枕”を手に入れた。



一体全体どうしたことであろうか?

あれから全く眠れない。


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